2017.09.14
ノスタルジーとしての食
鯨の赤身を焼いて食べるなら、軽く表面をさっと炙って食べる方法がある。
ドリップは止まるし、肉は硬くならず、刺身の良さそのままで香ばしく味わうことができる。
鯨の赤肉は、背中側の肉であるか、胸側の肉であるか、スジが入っている肉かで、値段も美味しさも異なる。
面白いことに、ある日お客さんから「この鯨はやわらか過ぎて、昔食べたあの硬い鯨と違う!あの噛み切れなかった硬い鯨を食べたい!」と言われたことがあった。
一様にやわらかい鯨肉が良いと私は思っていたが、ノスタルジーを求めるお客さんにとっては、美味しさではなく、子供の頃、あの日食べた硬い鯨肉だったのだ。
その背景には、若き日の父や母が隣に居て、一家団欒の幸せな食卓があったのかもしれない。
それを思い出すのは、硬い鯨肉だった。
でもそのノスタルジーを求める鯨肉は、あと20年後には無くなってしまうだろう。
先祖の文化遺産で食べてきた歴史は必ず終わる。
「今」を作っていかなければ、未来は無いのだ。